多世代交流村「ゴジカラ村」

レポートNO.85

村の看板はすべて手作り
村の看板はすべて手作り
子どもとお年寄りは「時間に追われない国」の人

■「子どもの遊び場・雑木林を残したかった」
ゴジカラ村 代表・吉田一平さんを訪ねた。
「福祉や教育をやろうとしたわけじゃない」と語る吉田さん。雑木林のようにみんな違ってみんな良い。子どもやお年寄りと接するなかで、人との関わり方や人生の楽しみ方を、自分流に感じ取り、心のままにこの村をつくってきたのだろう。きっと人間をこよなく愛することのできる人なのだ。みちくさや遠回りを喜び、1+1は2にならない世界。自然に囲まれてゆっくり暮らせば生きることがもっと楽になるのに…「5時から」をゆっくり楽しもうと名付けられた。
長久手町は、名古屋市のベッドタウン。98haの区画整理事業内の一角に約1万坪(3.3ha)の雑木林を残し、その中にもりのようちえん、特養老人ホーム、ケアハウス、デイサービスセンター、看護福祉専門学校、地域包括支援センター、訪問看護やヘルパーステーション、託児所、陶芸工房、古民家、ゴジカラ村役場などを作ってきた。村全体が福祉の拠点・複合施設になっている。

■「時間に追われる国」の疲弊
学校や病院、会社(仕事場)は常にスピードと効率性が求められ数値で比較・評価される社会。同じような人を集めて、無駄やわずらわしさを排除してきた。確かに便利で物質的には豊かになったけれど、虐待、家庭内暴力、いじめ、精神疾患、自殺者は毎年3万人を超え、孤独死もますます増えてくる。不安と息苦しさは増すばかりだ。
子どものころに本当の生きる楽しさを味わっていれば自殺はしない。教育を変えていくべきだと吉田さんは言う。人生80年代「時間に追われない国」に戻っても、共に生きられる社会にするために。

■「もりのようちえん」雑木林は子どもの遊び場 
ここはまるでプレーパーク!大人に隠れて遊べる!秘密基地が作れる!水、木、土、石ころ、草、花、虫や動物たちが遊びの素材。森の自然が子ども達の想像力と冒険心をかきたて、一日中遊びまわる。山の斜面には丸太のロッジ風園舎がある。遊具、制服、給食はなし。3歳〜5歳の縦割りクラスで年上が年下の面倒を見る。年下はそんな年上に憧れる。一緒の活動は難しいのでこれといった行事もない。「運動会がやりたい」と言われて、お年寄りとニラメッコをした。子どもはいろんな大人の世間話を聞きながらコミュニケーション・人間関係を学んで育つ。だから多世代で混ざり合って暮らすことが大事だと言う。

■ほどほど、まあまあで、たくさんの人の役割が生まれてくる
建物でも道でも、その作り方にこだわる。人工的な建物や道では落ち葉一つでもそれはゴミ。でも自然の中なら落ち葉も風景になる。木をよけながら建てたケアハウス。曲がりくねった廊下。自然素材、デコボコ道、草ぼうぼう。見かねて近所の人が建物や道を直したり、草取りにやって来る。誰でも直せるのがいい。ほどほど、まあまあ、適当にすれば皆が参加できる。リタイアした人が経験や技術を生かして地域で活躍するための「きねづかシェアリング」は有償ボランティア。運転や修理、薪割りなど、村や地域での仕事はいくらでもある。大切なのは、いろんな人の力を借りること。

■もめるから面白い!お年寄りの「立つ瀬」を作る
介護を受けている時「すみません」を繰り返す。これではお年寄りは立つ瀬がないと吉田さんは言う。文句を言うお年寄りはなぜか生き生きとして元気だ。もめごとを仲裁したり、失敗した職員を慰めながら自分の役割や存在価値をみつけているのだ。1時間に10人のお世話ができる有能な職員と1人しかできない職員。お年寄りにとってはゆっくり付き合ってくれた職員の方が嬉しいはず。しかし介護保険制度の限界もある。ケア以外の時間をどうやって過ごすのか。老人ホームの中庭には黒ヤギと白ヤギ、事務所では癒し犬が愛想を振りまく。園児たちがやってくると話しかける人もいれば嫌がる人もいる。どんな感情でも「こころを動かす」ことが大事だという。生きている証拠なのだ。ここにはどんなものにも役割がある。

■多世代が混ざって暮らす「ミクスチャーハウス
高齢者一日22時間の孤独と不安の解消は人が緩やかにつながっていること
施設も在宅も、職員が一人にかける介護保険サービスはせいぜい一日2時間分。残り22時間の暮らしを支える工夫が必要だ。ゴジカラ村では今、「ミクスチャーハウス」というコレクティブ賃貸住宅(70戸)の来年秋の入居を目指して、話し合いが進められている。高齢者、子育て世帯、OL、学生など入居希望者が設計段階からコモンスペース(共有空間)の活用や、ルールをつくるのだ。人と人のつながりは一朝一夕にはできない。このわずらわしい過程こそが孤立を防ぐ第一歩になる。この新しい住まい方の提案にコミュニティの再生を期待したい。
単独世帯や高齢者のみ世帯、日中独居の高齢者は今後ますます増えていく。現在国や都が進めている高齢者だけを集めた暮らし方には限界がある。今の制度を見直し、多世代が混ざり合う住まい方を拡げていけるような支援体制の構築が必要だろう。