社会を映し込む「児童虐待」

レポートNO.86

向陽台小学校内にある「子ども家庭支援センター」
向陽台小学校内にある「子ども家庭支援センター」
■1989年「子どもの権利条約」が国連で採択されて20年が経過したが・・・
虐待による痛ましい事件が後を絶たない。
2000年児童虐待防止法を制定し、児童相談所への一般市民や関係機関からの通告と「速やかな安全確認」を義務付けたが実効性に乏しく、2004年の法改正では“虐待が子どもの人権侵害であること”と“権利としての自立支援”がやっと明記されることになった。しかし、厚生労働省の統計によると、2008年度の児童相談所の虐待相談対応件数は42,664件。1999年度(児童虐待防止法施行前)の3.7倍にもなった。2007年1月から2008年3月までの死亡事例115件(142人)のうち約5割は0歳児、約8割が3歳以下だ。
身体的虐待、ネグレクト、心理的虐待、性的虐待のどれもが増加傾向にある。発見しやすい身体的虐待が最も多いのだが、特にこの10年間では心理的虐待が5.6倍、ネグレクトが4.6倍に激増している。この統計に表れてくるのはあくまでも相談を受けた数である。性的虐待にも言えることだが、虐待は家庭内で起こるために、発見されにくく、確認までに長期間有することから、これ以外にも何の対応もされず、声も出せずに助けを求めている子ども達が必ず何倍も存在することが推察できる。周囲にいる大人は、つねに子どもの様子に注意を払いながら見守る姿勢が必要だろう。
虐待は、身体発育や知的発達を阻害したり、情緒面の問題や虐待の世代間連鎖(約3割)なども引き起こすといわれている。学童以降に非行や問題行動、加害行動を起こし、家庭で虐待されていたことがはじめて表面化する場合も多い。身体やこころに一生残るキズを負わされる子どもが増え続けていること、その子たちが成長し、社会を担う存在になっている現実を、私たちは深刻に受けとめなければならない。不安定な経済状況が長期化し、うつをはじめさまざまな精神疾患が急増している。周囲の目がなかなか届かない家庭内で影響を受けるのが、一番弱い立場の子ども達だ。社会全体がもっと子どもの命と成長・発達を守るために、子育て家庭を支援していくことが必要だ。
市町村も相談窓口となったことで、子ども家庭支援センターでの対応も年々増え続けている。

「カリヨン子どもセンター」のシェルター>(緊急避難場所)
■「生きていてほしい!」子どもに寄り添い伝え続けるだけ・・・
荒れた子ども達が増え続けている。
弁護士を中心に市民、児童福祉領域の人たちと東京都が連携し、2004年6月に開設以来、5年半で14〜19歳までの150人を超える子ども達がシェルターに逃げてきた。16・17歳が最も多く、その4分の3が女子だ。長い間、虐待や養育放棄にさらされ、地域の中でも見捨てられ、だれにも支援してもらえなかった子ども達。大人に裏切られてきた経験しかない。生まれてから一度も大事にされてこなかった思春期の子ども達は愛情に飢え、荒れ狂い、リストカット、自殺未遂などで大人を試してくるという。
1、2か月滞在し、やがて一人で歩き始める。しかし、家に帰れるのは4人に一人位しかいない。シェルターを出た後、就労できる子どもには自立支援ホームがあるが、再就学ができず、高校の資格が得られないので、自立は難しい。住む場所がないのだ。就労も就学もできない知的障がいや精神障がいを抱えた子どものグループホームが必要だ。若年で妊娠した女の子たちの住まいがないことも、大きな課題である。早急な対応が求められる。

子どもの救済
■人権の回復——子ども自身がプライドを持って生き直すことができるように、エンパワーメントすることへの支援を!
社会のなかの弱者である子どもの力だけではなかなか抜け出すことはできない。今も虐待に耐えながら暮らし続けている子どもがたくさんいるはずだ。児童相談所に行くぎりぎりのところにいる子どもでも、地域の人たちとのつながりがあれば、地域で暮らしていけるという。その子どもを軸にして、大人になるプロセスを長期間支える仕組みづくりが必要だ。児童福祉士、児童民生委員、主任児童員、臨床心理士、保健士、教育関係者、ボランティア団体や地域の人など多くの大人の愛情と連携がエンパワーメントに繋がるのだ。子どもとその家族を支えるにはその地域の力量が問われてくる。

■子どもと家族のSOSをキャッチして!
「なぜわが子を傷つけるのか」理解できないほどの残虐な虐待が目立ってきたことは、今の社会全体への警告と受け止めるべきだろう。虐待を否認し、援助を拒否する家族こそ、真に援助を必要としているはずだ。そして虐待を受ける子どもは今も地域で暮らし、つらくても声を出せないでいる。

虐待かな?」と感じたら、
稲城市子ども家庭支援センターへ《042−378−6366》

≪2008年度 厚生労働省統計≫                    
*虐待者別 
    実母——————60.5%
    実父——————24.9%
    実父以外の父—— 6.6%
    実母以外の母—— 1.3%

*被虐待者の年齢別  【対前年度】
    0〜3歳————18.1% 【 4.1%増】
    3歳〜学齢前——23.9% 【 5.0%増】
    小学生—————37.1% 【 2.0%増】
    中学生—————14.7% 【 6.3%増】
    高校生.その他—- 6.2% 【26.3%増】

≪児童虐待の要因≫
①親自身の問題
 子ども時代、親に愛された体験がない
②家庭状況
 貧困・精神疾患・夫婦関係などで養育困難
③子ども自身の問題
 気質や障がいなどによって手のかかる子ども、育て難い子ども
④親子の相性の問題
⑤心理的、社会的な孤立
「母性神話」で押し付けられる育児や「子育ては親の責任」という 暗黙の圧力はまだまだ根強く、一人で密室育児を余儀なくされる 母親の多くは家庭内でも社会からも孤立し、さまざまな育児不安 を抱えている。